薄荷脳の夢

1日1冊読みたい、とある勤め人の読書記録と日々のよしなしごと。ミステリとホラー多めだけどかなり雑食。

日本の夏、怪談の夏『拝み屋異聞 田舎怪異百物語』

 夏になると怪談が読みたくなります。最近はテレビで心霊番組をやらなくなったので特に。

 今日読んだのは『拝み屋異聞 田舎怪異百物語』。作者の郷内心瞳氏は宮城県内で拝み屋をしており、その体験を元にした怪談本を何冊も出版しています。

 今作も、旧家で行われた百物語会に呼ばれた際に起こった出来事を軸に、作者が見聞きした怪異が百話収められています。

 実は、私も宮城県内に住んでおり、家の周りは田んぼと畑しかないド田舎です。

 私はお世話になったことがないけれど、うちの町内にも拝み屋さんがおり、ある地区で人死にが立て続けに起こった時にはお祓いをしたりするような土地柄なので、今回のような田舎をテーマにした怪異譚は、とても親近感が湧きました。

 宮城の田舎についてですが、蛇に取り憑かれた女性を祓う第四十二話にこんな一節があります。

 特に街場に暮らす人にとっては、今時、蛇や狐が人にとり憑くなど、おとぎ話の世界のように感じてしまう向きも少なくないと思うが、宮城の田舎における現実は、斯様のとおりである。

 この十六年間、野山の獣にとり憑かれた者を数えきれないほど手掛けてきたし、これから先も地元で拝み屋を続ける限り、手掛ける機会があるのだと思う。

(『拝み屋異聞 田舎怪異百物語』より)

 うん、あるらしいですね、そういうの。町内に拝み屋さんがいるくらいだし、取り憑かれる人もいるのでしょうけど、我が家は祖父がその手の話が嫌いなので、全くそういった情報が入ってこないのです。

 この祖父という人が、昭和一桁生まれで今年米寿になったとは思えないくらい合理的な考え方をする人なのです。

 人魂と言えば、昔は土葬だったから死体から発生したガスに引火したせい。昔、どこそこのナントカさんが狐に化かされてお土産の寿司を取られたという話は、酔っ払って自分で食べたか失くしたかしたのを狐のせいにしてるだけ。と、この世には不思議なことなど何もないと言わんばかりに論破してしまいます。

 そんな夢のないことを言う人が身近にいるせいで、余計に怪談の世界にのめり込んでしまった気がします。

 その点、郷内氏の諸作品は怪異を怪異のまま、筋道立てて解決するので安心して読めます。しかも『田舎怪異百物語』は珍しくハッピーエンドといいますか、明るい終わり方なので初めて郷内氏の本を読む方にもオススメです。

 

拝み屋異聞 田舎怪異百物語 (イカロスのこわい本)

拝み屋異聞 田舎怪異百物語 (イカロスのこわい本)