薄荷脳の夢

1日1冊読みたい、とある勤め人の読書記録と日々のよしなしごと。ミステリとホラー多めだけどかなり雑食。

サムライの皮を被ったベテラン主婦『半助喰物帖』

 こんにちは、ダイエット中にも関わらずキャラメルポップコーンを食べてしまったるかです。

 ダイエットしている時って、食べちゃダメだって思えば思うほど、食べ物のことを考えてしまうんですよね。そんな気を紛らわすために、あえて! グルメ系の漫画とか小説とかを読んで、食べた気になろうとするんですけど、結局余計にお腹が空く時のほうが多い気がします。

 そんなこんなで最近読んでいたのは『半助喰物帖』。

 江戸時代からタイムスリップしてきた楢原半助という侍が、色々あって一人暮らしの女性、吉川香澄の台所を預かり、台所番として料理を作るお話です。

 タイムスリップものって、元いた時代と現代の習慣などの差で、騒動を起こすドタバタ展開が苦手で敬遠していたのですが、この漫画はあくまで料理というテーマに徹しているので落ち着いて読むことができました。

 何より半助さんの順応力の高さがすごい。初見で冷蔵庫もコンロも何であるかを理解して使いこなしますし、すぐに現代の物価や金銭感覚を身につけ、何が高くて何が安いか考えて買い物するところを見ると、すごく頭の良い人なんだろうなって感じがします。

 しかも、月末に残り少なくなったお金をやりくりして美味しいものを作ろうとしたり、臨時収入があっても全額使わず、半分を家計の為に残しておいたりとかベテラン主婦顔負けです。

 半助さんはもともと料理が好きで、江戸時代には珍しく男性が食事の支度をする家で育ったそうです。江戸詰め(単身赴任)の時も自炊していたそうで、その経験がまさかタイムスリップした時に活きるとは思わなかったでしょうね。

 本人はただ食べるのが好き、食い道楽だと言いますが、生きることにおいての食事の重要性や大切さがちゃんと分かっている人なのだと思います。香澄もそんな半助さんに感化されて、2巻の最後ではご飯をより美味しく、楽しんで食べるために普段は使わない重箱を購入します。1話では冷蔵庫はほぼ空っぽで、グラノーラで適当に食事を済ませるイマドキな感じだったのにすごい進歩ですよね。

 あ、ちなみに男女の同居モノですが、恋愛展開は一切ありません。半助さんは妻帯者で、色気より食い気を地で行くような人なので、まずそんな雰囲気にはなりません。香澄も、妻帯者で江戸時代の人間である半助さんをそういう対象として見てないです。

 半助さんは香澄のことを困っていた時に助けてくれた恩人として見ており、現代では香澄中心の生活をしていますが、だからといって主従関係ではない気がします。香澄の言葉を借りれば、自分は外で働く、半助さんは料理含め家のことをする、のウィンウィンの関係で、香澄としては対等であろうとしています。半助さんも過剰に遜ったりしないので、ちょっと変わったルームシェアといった感じでしょうか。

 ふたりのゆるい関係も心地良いですし、江戸時代の料理にも詳しくなれるしで衝動買いして正解でした(衝動買いだったんかい)。それに和食なら食べたくなってもヘルシーだし……、いや、やっぱりダメかな……。

 

こんな夢を見た

 こんな夢を見た。

 私は駅前で買い物をしていて、以前訪れた雑貨屋を探している。

 雑居ビルの2階か3階にあって、名前は覚えていないけれど内装も商品も全て私好みだったことは覚えている。

 名前を覚えていないから、スマホで検索することも出来ない。仕方なく私は、雑居ビルを1軒1軒訪ねて回る。そうせずにはいられないほど、その雑貨屋は素晴らしい場所だったのだ。

 途中、たくさんの犬が押し込められた部屋やなぜか河原に繋がっている部屋はあったが、当の雑貨屋は見つからない。

 とうとう見つけられないまま目を覚まして、ようやく気付くのだ。ああ、私はそんな店、1度も行ったことないのに、と。

 

 いきなり昨日見た夢の話ですみません。他人が見た夢の話って、どうでもいい話ランキング1位だとどこかで聞いたことがありますが、個人的に不思議だなと思ったのでここで書かせてもらいました。

 というのも、実はこの夢、すでに何回か繰り返し見ているのです。途中に出てくる部屋は、そのつど人間がマネキンをしている服屋だったり、一言も喋ってはいけない部屋だったりとヴァリエーションがありますが、駅前で以前訪れた雑貨屋を探すというシチュエーションは共通しています。

 そしてなぜかこの夢、具合が悪いときにばかり見るのです。

 昨日は台風後、急に上がった気温で熱中症になりながら見た夢がこれでした。前は偏頭痛が酷くて起き上がれなかったときや、貧血で倒れた時にも見ました。

 そう考えると、素晴らしい場所である雑貨屋というのは天国のメタファーで、今までは見つけられなかったから生きていられて、その雑貨屋を見つけたら死んじゃうのでは……。なんて、思うこともありますが、所詮は夢ですからね。あまり気にしないようにしています。

 それより気になるのは、現実で1度も行ったことがない実在しない場所を、夢の中では絶対1回行ったことがある! と意固地になって探していることです。

 個人的な感覚なので上手く伝えられないのですが、夢の中では存在する、と確信して半ば必死で行動しているにも関わらず、目が覚めた途端「いや、そんなとこ知らないし」と急激に現実に戻る感じがすごく不思議なんですよね。夢なんてそんなものかもしれないですけど。

 まあ、中身のない夢の話は置いておいて、こう夏目漱石の『夢十夜』っぽく書いてやろうと思って久しぶりに読み返したのですが、なんかもうすごかったですね。

 普段使わないような単語がたくさん出てくるし、言い回しも固いのに次へ次へと読めてしまうのは、やっぱり文豪の文章力なんだな、と思いました。

 到底真似できるレベルじゃなかったので、冒頭の一文だけ拝借してあとは自由に書きました。漱石先生、なんかすみません……。

 ちなみに私が1番好きなのは、六部殺しみたいな第三夜です。

 

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

 

 

『ねこと私とドイッチュラント』のケーゼクーヘンが食べたい!

 『ねこと私とドイッチュラント』の2巻に、ケーゼクーヘンというドイツ風のチーズケーキが登場します。

 これがものすっごく美味しそうでどうしても食べてみたかったので、コミックを参照にしつつ作ってみました。以下はレシピというよりは、自分用の覚書に近いです。すごく自己流でぐだぐだで、省いたり代用したものも多いですが、それらしい雰囲気は出たのではないかと。

材料(ケーキ5号型1台分)

生地
  • 小麦粉:150g
  • 砂糖:60g
  • 卵:1個
  • バター:60g
  • ベーキングパウダー:小さじ1/4
  • バニラエッセンス:2~3滴
フィリング
  • 卵白:1個
  • 卵黄:1個
  • Oikos(その他水切りヨーグルトなど):1個
  • サワークリーム:100g
  • 砂糖:60g

 コミックの中には分量の表記がないので、うちにあるお菓子作りの本を参考にしつつ、あとは勘でどうにかしました。

 作中ではクワルクというドイツのフレッシュチーズが使われていましたが、日本では手に入らないので、同じく高たんぱくの乳製品であるギリシャヨーグルトのOikosに、それっぽい風味が出そうなのでサワークリームを加えて代用しました。

 

 

 

 たぶんクワルクよりは水分が多くなってそうなので、オリジナルのレシピに出てくる生クリームは省略します。それと、バニラシュガーの代わりにバニラエッセンスを入れました。

 あと省略したものはレモン。皮まで使うため無農薬のものが必要だったのですが、近所のスーパーで売っていなかったため。それからコーンスターチ。これは単純に入れ忘れました。

 結論から言うと、生地の材料は一台分には多かったですし、ベタベタした生地になってしまったので、バターと卵を減らすか、小麦粉を増やした方がいいかもしれません。あとだいぶ甘かったので、砂糖は減らすべきですね。

下準備

 分量をはかり、粉類は合わせておきます。粉はふるわなくても大丈夫でした。

 それから型にバターを塗り、小麦粉をはたきます。

生地を作る

 まずは土台となる生地を作ります。

 合わせた粉類にバターを入れて、砂状になるまですり潰します。トーコちゃんはけっこう楽しい作業と言っていますが、私は手の体温が高いせいかうまくすり潰せなくて苦手なので、フードプロセッサーを使っちゃいます。


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 これだと粒が均一になりますし、手も汚れません。難点をあげるなら、フードプロセッサーを洗うのがめんどくさいことでしょうか。

 いい感じに砂状になったら、卵を加えてこねないように混ぜます。私はゴムベラでさっくりまとめました。でもこの日は気温が高く(30℃以上あった)、バターが溶けてきたのかそもそも量が多かったのか、ベタベタした生地になってしまいました。


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 でも材料は同じだし、焼けば固くなるだろうとそのまま型に張り付けました。

 フィリングを作る間、これを冷蔵庫で休ませます。

フィリング

 次にフィリングを作ります。

 ヨーグルトとサワークリームをボウルに入れ、そこに卵黄と砂糖を加えてよく混ぜます。ムラやダマがなくなるまで混ぜたら、次にメレンゲを作ります。


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 うちにはハンドミキサーがあるのでしませんでしたが、持ってない場合はトーコちゃんのようにあらかじめ卵白を冷凍庫でシャーベット状にしてから泡立てると良いかもしれません。

 何分立てかの記述がないので、とりあえず角が立つくらい泡立ったら先ほどのヨーグルトのボウルと合わせます。

  一度に全部混ぜようとせず、何回かに分けるときれいに混ざります。


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 これを冷蔵庫で冷やしておいた生地に流し入れ、180℃に温めたオーブンで60分間焼きます。

完成!

 そして焼き上がったものがこちらです!


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 オーブンから出したての時はふっくらしていましたが、あっという間にしぼんでしまいました。コーンスターチを入れていたら、もうちょっとふっくらが保てたのでしょうか。

 確かにこれはむっちりどっしりですね……。うちは家族が多いからいいですけど、一人と一匹で食べるのには多かったでしょうね。

 味は、まあ砂糖を入れすぎたのでかなり甘かったですけど、乳製品らしいコクと酸味があって美味しかったです。

 美味しい、ですけどかなり自己流にアレンジしてしまったので、ケーゼクーヘンとは言い難いような。ケーゼクーヘンもどき?

 次はもっと本物に近づけたい、とは思うのですが、本物を知らないのに、どうやって本物に近づければいいのでしょう……。なんかこんな話、吉田篤弘の小説にあったような……。

 とりあえず、次回作る時は砂糖を半分くらいに減らして、コーンスターチを入れ忘れないようにしたいと思います。

 

 

 

ふく夢WINERY ROCK FESTIVALに行ってきました

 去る9月1日、ふくしま農家の夢ワインで開催された「ふく夢WINERY ROCK FESTIVAL」に行ってきました!


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 Instagramでイベント情報を見かけ、気になって調べてみたら入場料1,500円でカレーとピザが食べられて、プラス1,000円でシードルが飲み放題!? しかも年に1度あるかないかの日曜休みとかぶっているとなれば、呑んべの私としては行かない手はないということで、休みで家にいた妹も(車の運転用に)巻き込んで福島まで出かけたのです。

ふくしま農家の夢ワイン

 福島県二本松市にあるワイナリーで、養蚕業が盛んだった頃の元共同稚蚕飼育所を改装した醸造所なのだそうです。

 ここでぶどうを作る農家さん達が、醸造から販売までを行っているそうです。

 ロックフェスの会場の近くにもぶどう畑があり、ちょうど時期なのかぶどうの実がなっていました。これがほんと、色つやが良くてそのまま食べたくなるくらいでした。

ふく夢WINERY ROCK FESTIVAL

 カレーとピザとシードル(全部大好物)につられてやって来たはいいものの、そもそもなぜワイナリーでロックフェス? と思ったのですが、感謝祭の一環として、ワインやシードルに親しんでもらおうと開催しているそうです。

 確かに、シードルにロックの雰囲気が合う気がしますし、周囲に人家が少なそうなので、大きな音を出しても大丈夫そうですし、けっこうロックフェスを開催するのにいい場所なのかも知れません。

シードル飲み放題

 肝心のシードルですが、なんと! 甘口、中甘口、辛口の3種類が飲み放題だったのです。これは飲み比べもできるやつですね。

 どれも美味しかったですが、個人的に1番好きだったのは辛口のシードルでした。アルコール度数11%にも関わらず口当たりがすっきりしていて飲みやすくて、香りも爽やかで美味しかったです。

 あと珍しいところで、チェコ産のワインも販売していました。

 チェコといえば、セドレツ納骨堂とかカレル・チャペックとかモルダウぐらいしか思い浮かばず、ワインのイメージはありませんでした。でも、白ワインをグラスで買って飲んでみたら、フルーティですごく美味しかったです。

 うん、ワイナリーに行くので三浦しをんの『黄金の丘で君ところげまわりたいのだ』で予習してきたのですが、結局酔ってると美味しいことぐらいしか分からないですね。

野菜たっぷりカレー&手づくりピザ

 入場券を見せると食べられるカレーは、ルーこそよく見かける欧風のものでしたが、上に揚げ野菜がたっぷりのっていて食べ応えがありました。からっと素揚げにした茄子とかぼちゃが甘めのカレーによく合う……。

 ピザは、なんと自分で生地を伸ばして、具やソースも好きなようにトッピングさせてもらえます。

 私は薄くてクリスピーなピザが好きなので渾身の力で生地を伸ばしましたが、アメリカンなぽってりピザが好きな人は厚めに伸ばせばいいわけで、好みにあわせられるのがいいでですよね。

 しかも、それをその場で石窯で焼いてもらえるとは、なんて贅沢! 狙いどおり薄くて香ばしいピザに仕上がり大満足でした。


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 全体的に満足度の高いイベントだったので、次回開催されたらまた行きたいです。

 それまでにもうちょっとワインの知識を増やして、飲みながら蘊蓄のひとつでも言えるようになりたいですね。

 

 

ビワとイチジクは庭に植えてはいけない!?『怪談狩り あの子はだあれ?』

 先日、仙台の長命ケ丘に新しく出来たブランチ仙台に行ってきました。待ち合わせまでの時間潰しのつもりだったですが、WEST棟1Fにあるヤマト屋書店が楽しすぎて危うく約束の時間に遅れるところでした。

 背の高い書架がずらりと並び、専門書が充実しているのも素晴らしかったですが、文房具コーナーがもっと素晴らしかった!

 だって、TWISBIが置いてあるんですよ!? 吸入式なのに値段がお手頃、しかもデザインが可愛い台湾発の万年筆。欲しいけどもう万年筆は4本も持ってるし、どこかで見かけたら買おうかな〜、ま、どうせこんな田舎じゃ売ってるとこないだろうけど! と思ってたらこんな郊外寄りの商業施設の書店で見つけるとは……。

 突然の出会い過ぎて、心の準備(財布の準備ともいう)が出来てなかったので今回は見送りましたけどね……。他にも駅前の大型文具店でも見たことないようなインクが売ってたりと、緩みそうになる財布の紐をギュっと締めて目的の本だけ買って帰りました。

 その本が中山市郎の『怪談狩り あの子はだあれ?』です。怪談狩りシリーズは何冊か出ていますが、今回は土地と家にまつわる怪談ということで、幽霊というよりは狐狸のしわざや神様・神社についての話が76話収められています。

 中でも怖かったのは神社や神様にまつわる話で、不敬をはたらいたり、元神社の土地に住んだばかりに酷い目に遭う話が何話かありました。

 幽霊や妖怪も怖いですけど、神様はもっと情け容赦がなくて、いっそ機械的に思えるほどスピーディに処罰を下していきます。この言い訳すら赦さない感じが、より恐ろしさを増しているような気がします。

 でも、個人的にそれより怖かった話が「ビワとイチジク」という話です。

 E子さんが子供の頃、よく遊びに行った親戚のおじさんの家で、ある日ビワの木を植えていました。

 それを見たE子さんのおじいさんが、イチジクの木が既にあるのにビワを植えるとは何事か、この2つを同じ庭に植えるとその家の当主にロクなことが起こらないんだ、と叱ります。

 何故、そう言われているか分かりませんが、E子さんの住む地域には確かにそうした言い伝えがありました。しかし、おじさんは「迷信だ」と気にせず、ビワの木を植えてしまいました。

 数年後、おじさんは脳梗塞で亡くなり、跡を継いだ息子も精神病院へ通うようなってしまったそうです。

 と、大体このような話なのですが、読んでいるうちにあれ? と思いました。

 そういえば、我が家にはどっちも植えてある……。

 気付いたときには血の気が引きましたが、でも別に家族みんな健康で暮らしてるし、この話だけ特別だったんだよ、と思い込もうとしましたが、やっぱり気になるのが人情というもの。とりあえずネットで本当にそうした言い伝えがあるのかどうか調べて見ました。

 その結果、やはり昔からビワとイチジクは同じ敷地内に植えてはいけないとされているようでした。理由については、ビワもイチジクも葉や枝が多い樹木で、家の日当たりが悪くなって住人が病気になるとか、実のなる木を敷地内に植えると運気が吸い取られるとか諸説あるみたいです。

 そんなことを言ったら、果物農家さんは運気吸い取られまくりな気がするのですが、どうなのでしょう。

 葉や枝に関しては、確かに鬱蒼と言っていいレベルで生い茂ります。でも大して背が高くなるわけでもないですし、窓のすぐ側に植えれば日当たりが悪くなりそうですけど、ふつう樹木ってそんなに家ギリギリのところに植えないですよね。実際、家から2、3メートル離れたところに植えてある我が家では、しっかり日光が確保できています。

 うん、なんだか調べている内に、だんだん気にならなくなってきました。ビワとイチジクの木を植えたのは10数年前ですが、今も何事もなく暮らしていますし。

 しかし、今も残る言い伝えや伝承には理由があって残っているのでしょうし、うちは大丈夫でも他所ではどうか分からないので、くれぐれも皆さま庭に木を植える際はお気をつけて……。

 

新世界「透明標本」展

 仙台駅東口のTFUギャラリーミニモリで開催されている、新世界「透明標本」展に行ってきました。
 ミニモリは東北福祉大学東口キャンパス内にあるギャラリーで、大アマゾン展からミュシャの展示までいろんな面白い展示をしています。こんなギャラリーがキャンパス内にあるなんて素敵ですね。

 

透明標本とは?

 透明標本とは、筋肉などの肉質を除去せずに、透明化することで骨格を観察できるようにした標本のことです。筋肉が残っていることで、生きている時と変わらない骨の様子を見ることができるそうです。
 また、同じく骨を観察するために骨格標本(理科室とかにあるアレですね)がありますが、小さな生き物ではきれいに骨だけにするのは難しいので、そういった生物に対しても有効な観察手段になるそうです。
 何より特徴的なのは硬骨成分か赤紫、軟骨成分が青に染められていることです。赤と青に染まった半透明の生き物たちが瓶の中を漂うさまは、研究用の標本というよりは幻想的なオブジェのようです。


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会場の様子

 訪れたのは水曜日のお昼ごろ、週の真ん中の平日でそんなに人は多くないだろうと思っていたら、展示室内に溢れかえる子どもたちとその親。そうか、世間はまだ夏休みだったのか……。

 でも、子どもの内からこういうものを見せてもらえるっていいですよね。科学とか生物に対して興味が湧いて、理科の授業が楽しくなる子もいるでしょうし。

 さて、肝心の展示についてです。透明標本というと瓶詰めのものがまず思い浮かびますが、ここの展示は四角いガラスのトレーにいくつもの標本を並べて展示していました。


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 それ自体が1枚の絵のようでとても美しかったですし、成長の段階を並べたものや近縁の種を集めたものを見ていると、いま私科学してる! という気分に浸れて楽しかったです。

 その他にもよく見かける瓶での展示もありましたし、プロジェクターやライトアップなど光を利用した展示もあり、見る人を飽きさせないような工夫が感じられました

 

ミュージアムショップは楽し

 展示室を全部巡り終わると、最後はミュージアムショップになっていました。博物館や美術館のミュージアムショップってなんであんなに魅力的なんでしょうね。展示物を見た興奮や感動を、家までそのまま連れて帰れるような気がするからでしょうか。

 透明標本柄のクリアファイルやマスキングテープに混じって、本物の透明標本も売られていました。ひとりの少年がお母さんに標本が欲しい、とねだっています。私も子どものころ標本や鉱物が喉から手が出るほど欲しかった身なので、少年を応援したくなりましたが値段を見てびっくり。数字が5ケタ並んでいます。さすがにこれは無理だろ、と思いながら、私はちゃっかり写真集を購入して会場を後にしました。あの少年は結局、買ってもらえたのでしょうか。


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[新世界]透明標本~New World Transparent Specimen~

[新世界]透明標本~New World Transparent Specimen~

 

 

待望の3作目!本屋大賞受賞作家の短編集『刑罰』

 フェルデイナント・フォン・シーラッハの新刊が出ていた! しかも2ヶ月前に! どうして今まで気づかなかったんだろう!

 といっても、大半の方はわけが分からないと思うので説明します。フェディナント・フォン・シーラッハはドイツで刑事弁護士として活躍した後に作家となった人物で、デビュー作『犯罪』が日本で本屋大賞「翻訳小説部門」第1位を獲得しています。

 私は学生時代に『犯罪』を読んで端正な文章と内容の奇想天外さに一目惚れして、続く『罪悪』や長編作品も追って読んでいたのですが、いつの間にか第3短編集『刑罰』が発売されていたのです!

 3作ともシーラッハが実際の事件を下地に書いた小説で、『犯罪』は特異な犯罪そのものを、『罪悪』はさまざまな罪のかたちをテーマにしています。

 今作の『刑罰』でも、さまざまな事情から罪を犯した人々が描かれています。

 人形を暴行された復讐をする男。背が低いことがコンプレックスの男が麻薬取り引きに手を染めた理由。夫の浮気に気づいた妻が起こした行動とその顛末。祖父が遺した湖畔の屋敷に執着する男。

 彼もしくは彼女たちは、時おり司法の手から逃れます。そんな人々を通して、法とは、刑罰とは何か考えさせられるような一冊でした。

 こう書くと法律的な難しい本のようですが、全然そんなことはありません。深く考えず、普通に犯罪小説として面白く読めますし、何より文章は1文1文が短く、平易で読みやすいです。

 平易、というのとはまた違うのかもしれません。とにかく淡々と事実だけを積み重ねていて、いっそ事務的なまでに余計な感情が入り込まない。だからこそ、生々しい犯罪やそれが起こるまでの過程が、驚くほどすらすら読めてしまうのです。こういう文体って、ちょっと他じゃ見ない気がします。

 また構成も巧みで、最後の1文が真実を明かすというか、最後の最後で全てがひっくり返るものが何篇かあり、思わずそういうことだったのか! とかやられた! とか叫びたくなります。

 それから、装丁もとても気に入っています。タダジュンによる装画がいい感じに恐ろしいというか、いっそおぞましいと言っていいほど独特なオーラを放っているので、1度手にとって見てみてほしいです。

 いろいろ書いてみましたが、ひとことで言ってしまえばとにかく好きな作品です。上にも書きましたがクセの少ない文章なので、翻訳小説独特の文体が苦手な人にもぜひ読んでもらいたい本でした。