薄荷脳の夢

1日1冊読みたい、とある勤め人の読書記録と日々のよしなしごと。ミステリとホラー多めだけどかなり雑食。

夏と私と現実逃避『ねこと私とドイッチュラント』

 世間的には夏休みだそうですね。

 私ですか? 夏休み? ありませんよそんなモノ。

 こんなどこに行っても混雑する時期に休みたくないですし。いや、負け惜しみとかではなくホントに。

 夏休みが欲しいかどうかは別として、猛暑の日本を抜け出して、どこかへ行きたい欲はあります。涼しそうなヨーロッパとか、今が冬の南半球とか。

 でもそんな時間もお金もないので、海外暮らしの本や旅行記を、クーラーの効いた部屋で読むのが最近のお気に入りです。

 今日、読んだのは『ねこと私とドイッチュラント』(ながらりょうこ)。物書きの仕事をしているトーコちゃんと猫のむぎくんの、ドイツでの日常を描いたコミックです。

 むぎくんはねこですが、二足歩行で人の言葉を話します。のみならず、お買い物のお手伝いもしますし、ひとりでご飯の用意だって出来ます。(インスタントですが……)

 1人と1匹は、ベルリンのアパートで暮らしていて、朝ごはんに目玉焼きを焼いたり、おにぎりを作って外で食べたり、餡子を炊いたりする時もあります。日本での生活と変わりないように見えますが、ちゃんとドイツの食べ物や住宅事情が描かれています。

 例えば、ドイツのスーパーで卵を買う時は、割れていたり汚れてたりするので、中身をちゃんと確認してから買うこと。ドイツで手に入るお米の種類は多く、日本米に近いものも手軽に手に入ること。

 あとはドイツの家やアパートには、地下室が付いていることが多いそうです。なんか地下室っていいですよね、ロマンがあって。うちにもあったらいいのに、地下室。そして暗号が隠された謎の鞄とか転がり出ないかな……。

 ともかく、どこにでもある日常だからこそ、日本との違いが浮き彫りになって、だんだんドイツという国が見えてきて面白かったです。

 他にも伝統的なじゃがいも料理を作ったり、クリスマスマーケットや花火を鳴らしまくる年越しイベントに参加するお話もあって、読むとちょっとだけドイツに行ってきた気分になれるのです。

 でもやっぱり、読み終わると本当にドイツ行きたくなりますが、ヨーロッパも今年は猛暑だそうで、しかも冷房が普及していないらしく、下手すると日本よりも大変。

 ドイツにはやっぱり、クリスマスマーケットがある冬に行くのがベストなのかな、などと思いつつ、まずは今年の猛暑を乗り切れるよう祈るばかりです。

 

アキレスと私

 皆さん、アキレス腱って切ったことありますか?

 私は切ったことがないのですが、相当痛いらしいですね。私が幼稚園の頃、切ってしまった同じ組の子が言ってました。

 それで当時、アキレス腱がよく分かってなかった私は、父に「アキレス腱って何?」と訊ねました。

 父はここ、と踵側の足首を指差し「無理な運動をしたりして、ここが切れると歩けなくなる。なんでアキレス腱っていうかというと、昔、アキレスという勇者がいて、ドラゴンを倒してその血を浴びて不死身になったんだけど、血を浴びた時に足首のところに葉っぱがくっついてて、そこだけ不死身にならなかった。その後、アキレスは足首を刺されて死んでしまったからココのことをアキレス腱っていうんだ」と私に教えました。

 もう大半の読者さんはお気付きかと思いますが、アキレスはドラゴンを退治してませんし、血を浴びて不死身になったワケでもありません。

 アキレスが不死身になったのは、女神である母、テティスが赤ん坊のアキレスを冥界の泉に浸したからです。この時、足首を掴んでいたので、足首だけ不死身にならなかったのです。

 高校生になった私は、図書室で借りたギリシャ神話の本で真実を知り、恥ずかしくて消え入りたくなりました。だって小学生の時、ドラゴンの血で不死身になった話を、さんざんクラスメイトに言いふらしたんですもの。もうあの頃のドヤ顔の自分を殴りたい。

 それから、ドラゴンの話はどこから来たんだろう、と長年の謎だったのですが、(父を問い詰めても「えー、そんなこと言ったっけ?」と要領を得なかった)2年ほど前、Fate/Grand OrderというRPGを始めて、ようやく疑問が氷解しました。

 ジークフリート、お前だったのか……!

 FGOを知らない人向けに簡単に説明しますと、歴史上の様々な英雄を召喚して世界を救うゲームなのですが、ストーリーの序盤にジークフリートという『ニーベルンゲンの歌』に登場する英雄が出てくるのです。

 何を隠そう、彼こそが邪竜ファヴニールを倒し、その血を浴びて不死身となった英雄なのだ!

 その後、Fate/Apocryphaというアキレウスジークフリートが登場するアニメが放映され、ゲーム内にもアキレウスが実装されたりして、Fateシリーズを知ってる人はそういう勘違いしそうだな、と思いましたが、私があの話を聞いた時にはこのシリーズは影も形もなかったんですよね。

 まさか2019年にfateを見て勘違いした人が、タイムスリップして幼稚園児だった私に父親のフリをしてアキレス腱のことを教えた……なんてことはあり得ないので、なぜ20年前あんな勘違いが起こったのかは、未だにちょっと謎なのです。

 

地上の楽園でC.M.B.を読む

 今日は仕事が休みだったので漫画喫茶に行ってきました。恥ずかしながら、2✕歳にもなって初めての漫画喫茶です。

 外は猛暑だというのに、寒すぎず暑すぎずの程よい空調で、ドリンクバーは飲み放題、半個室で人目を気にせずにいくらでも漫画が読めるし、その場でご飯まで頼めるとはここが地上の楽園か? とさえ思いました。

 さて、漫画喫茶に行って何を読んできたかというと『C.M.B. 森羅博物館の事件目録』です。

 ちょっと前に『捕まえたもん勝ち!』で加藤元浩を知り、調べたら『Q.E.D.』という漫画のベスト版として有栖川有栖セレクションが出てる! とまんまとKindleでセレクションシリーズを買いズブズブと加藤元浩ワールドにハマってしまったのです。

 このベスト版は有栖川有栖の他に辻真先田中芳樹がそれぞれ選んだものがありますが、全部読んでみて有栖川有栖の巻が群を抜いて理屈っぽい話ばかりで、すごく性格というか、好みが反映されているなぁ、とちょっと感心してしまいました。

 セレクションシリーズが面白かったから1巻から全部読んでみたい、でも50巻まで出版されてるし全部買うとお金が・・・と悩んでいたときにふと思いついたのです。そうだ、漫画喫茶があるじゃないか。

 最寄りの漫画喫茶を調べて乗り込み、意気揚々と少年マガジンコミックの棚の前に立つとQ.E.D.の他にもうひとつ、加藤元浩のシリーズがありました。それがC.M .B.だったのです。

 せっかく読み放題なんだしこっちも読んでみようかなーと、とりあえず3巻まで読んでみました。あ、やばい、こっちの方が好きかも。

 学生の頃、博物館通いが趣味だった人間としては、博物館に1人で住んでるという設定からしてときめくものがありますし、蝶の標本から呪物まで色んな珍しいものに関わる事件が展開するさまは、まさに「驚異の部屋」といった趣です。

 そんなこんなでページを捲る手が止まらなくなり、気づけば10時間で32巻まで読んでいました。

 特に好きなのは17巻の隠れ里と、19巻の銀座夢幻亭の主人。怪奇現象や超常現象を推理で解決する話って面白いですよね。あと銀座夢幻亭は、単純に謎の美人が出てくる話が好きなだけです。

 あんまり気に入ったので、帰りに本屋で1~3巻と17、19巻だけ買いました。そして妹にも布教しようと読ませてみたのですが「字が多すぎる。歴史っぽい話好きじゃない」とフラれてしまいました。しょんぼり。

 

好きがぎゅっと詰まったミステリ『千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖

 ミステリが好きです。
 小説でもコミックでも映画でも、面白いミステリとの出会いは嬉しいものですが、もっと嬉しいのは自分と同じくらいミステリが好きな人に出会えたとき。『千年探偵ロマネスク 大正怪奇事件帖』(囲恭之介)は、そんな同好の士に出会えたかのような1冊でした。

 時は大正8年。財閥総帥の庶子である秦野孝四郎はある日、病床の父に呼び出されます。父、秦野零明は彼に、孤島で開催されるオークションに出席し、人魚のミイラを競り落とすよう命じました。
 余命幾許もない父は、食せば不老不死になる人魚のミイラで延命を図ろうとしているに違いない。母や自分を捨てた父を憎んでいた孝四郎は、人魚のミイラを手に入れた上で破棄することによって復讐しようとします。そのため、彼は人魚のミイラの真贋を見極められるという白比丘尼のもとを訪れます。

 この白比丘尼、なんと人魚の肉を食べて千年の時を生き、培った知識でもって事件を解決する千年探偵なのです。あ、言わずもがなですが、美少女です。海老茶袴がお気に入りだったり、湯呑みで三ツ矢サイダーを飲んだり、けっこう可愛いところのあるひとです。


 彼女は新聞広告に隠されたオークション会場の謎を解き、ふたりは会場である大灯台島に向かいますが、この島がまた人魚や集団失踪といったいわくに溢れているのです。また他のオークション参加者も孝四郎の腹違いの兄、伯爵夫人と書生、医者、画家、成金の相場師など、ひと癖ありそうな人物ばかり。

 島で彼らを迎えるのも、没落男爵に双子の女給、眼帯の料理人などこれまた裏がありそうな人々。男爵に先代の謎の遺言の解読を依頼されたり、人魚のミイラを落札出来なかったりでオークション初日が終わると、翌朝、男爵と双子の妹の方が死体で見つかります。
 そして、孝四郎は死亡推定時刻にアリバイがなく、夢遊病(医者は多重人格を疑っている)を患っていて事件当夜も出歩いていたのを目撃されたことから、犯人とされ納屋に閉じこめられてしまいます。

 ざっと半分くらいまであらすじを紹介しましたが、ここまででも孤島、人魚、双子、集団失踪、遺言の謎、多重人格などなど心躍るミステリ的アイテムが多数登場します。最後まで読むと分かりますが、これらのアイテムはただ登場するだけでなく、かなり上手く物語内で使われています。

 その後、3人目が殺され、納屋の鍵が外されていたことから孝四郎と白比丘尼は共犯として暴徒化した医者たちに追われます。その過程で地下通路を発見し、男爵の本当の殺人現場を見つけるのですが、このくだり、横溝正史八つ墓村っぽいなぁ、と読んでいて思ったのです。

 よく考えてみると、白比丘尼が推理を披露する時のセリフ「知識の糸を紡ぐ」というのは、『緋色の研究』におけるシャーロック・ホームズの緋色の糸に関するセリフを思わせますし、心神喪失状態の人物に罪を着せるところはアガサ・クリスティの『ABC殺人事件』のような。そう言えば孤島の双子と言えば悪霊島っぽいですね。

 古き良きミステリの道具立てがあったり、なんとなく名作を思わせるシーンがあったり、そういった遊び心が感じられて、まるでミステリ好きの友人とおしゃべりしているような感覚で楽しく読める1冊でした。

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