待望の3作目!本屋大賞受賞作家の短編集『刑罰』
フェルデイナント・フォン・シーラッハの新刊が出ていた! しかも2ヶ月前に! どうして今まで気づかなかったんだろう!
といっても、大半の方はわけが分からないと思うので説明します。フェディナント・フォン・シーラッハはドイツで刑事弁護士として活躍した後に作家となった人物で、デビュー作『犯罪』が日本で本屋大賞「翻訳小説部門」第1位を獲得しています。
私は学生時代に『犯罪』を読んで端正な文章と内容の奇想天外さに一目惚れして、続く『罪悪』や長編作品も追って読んでいたのですが、いつの間にか第3短編集『刑罰』が発売されていたのです!
3作ともシーラッハが実際の事件を下地に書いた小説で、『犯罪』は特異な犯罪そのものを、『罪悪』はさまざまな罪のかたちをテーマにしています。
今作の『刑罰』でも、さまざまな事情から罪を犯した人々が描かれています。
人形を暴行された復讐をする男。背が低いことがコンプレックスの男が麻薬取り引きに手を染めた理由。夫の浮気に気づいた妻が起こした行動とその顛末。祖父が遺した湖畔の屋敷に執着する男。
彼もしくは彼女たちは、時おり司法の手から逃れます。そんな人々を通して、法とは、刑罰とは何か考えさせられるような一冊でした。
こう書くと法律的な難しい本のようですが、全然そんなことはありません。深く考えず、普通に犯罪小説として面白く読めますし、何より文章は1文1文が短く、平易で読みやすいです。
平易、というのとはまた違うのかもしれません。とにかく淡々と事実だけを積み重ねていて、いっそ事務的なまでに余計な感情が入り込まない。だからこそ、生々しい犯罪やそれが起こるまでの過程が、驚くほどすらすら読めてしまうのです。こういう文体って、ちょっと他じゃ見ない気がします。
また構成も巧みで、最後の1文が真実を明かすというか、最後の最後で全てがひっくり返るものが何篇かあり、思わずそういうことだったのか! とかやられた! とか叫びたくなります。
それから、装丁もとても気に入っています。タダジュンによる装画がいい感じに恐ろしいというか、いっそおぞましいと言っていいほど独特なオーラを放っているので、1度手にとって見てみてほしいです。
いろいろ書いてみましたが、ひとことで言ってしまえばとにかく好きな作品です。上にも書きましたがクセの少ない文章なので、翻訳小説独特の文体が苦手な人にもぜひ読んでもらいたい本でした。